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大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)54号 判決

奈良市東九条町一、〇一四-六一

控訴人

浜中達也

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

佐藤真理

相良博美

同市登大路町

奈良合同庁舎

被控訴人

奈良税務署長

森本圭治

右指定代理人

饒平名正也

中野英生

志水哲雄

石井出澄

井上勝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五〇年三月一日付をもってなした

(1) 控訴人の昭和四六年分所得税につき所得金額を四六八万九八二七円、所得税額を七七万三五三〇円(ただし、いずれも審査請求により一部取消されたのちの金額である。)の賦課決定

(2) 控訴人の同四七年分所得税につき所得金額を三一九万九九七五円、所得税額を三五万〇九〇〇円とする更正処分のうち、所得金額につき二〇八万円、所得税額につき一四万六四〇〇円を超える部分及び過少申告加算税一万〇二〇〇円の賦課決定

(3) 控訴人の同四八年分所得税につき所得金額を六〇四万二八〇七円、所得税額を一一八万六四〇〇円(ただし、前同一部取消されたのちの金額である。)とする所得金額につき二九〇万円、所得税額につき二九万九九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税四万四三〇〇円の賦課決定

は、いずれもこれを取消す。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  当事者双方の主張

次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  更正処分手続の違法性

(1) 本件更正処分は、被控訴人により、奈良民主商工会に対する昭和四九年から五〇年にかけての意図的な弾圧の一環としてなされたものである。すなわち、本件は右商工会を破壊するという違法な目的によりなされたものであるから、行政権(課税権)の濫用というべきである。

(2) 本件の具体的課税手続においても、控訴人の休業日は平日であるからこのとき来訪されたい旨の申入れを無視し、事前に何の連絡もなく、税務署員が調査に来たうえ、控訴人の依頼した事務局員が傍にいるだけで調査に着手せず、更には、反面調査はしないとの約束を無視してこの調査をするなど、極めて恣意的な税務調査である。

(二)  控訴人の所得について

(1) 被控訴人の推計課税の不合理性

控訴人の回転焼の差益率に関し推計課税をするのは不当であり、課税の原則である実額課税によるべきである。すなわち、

イ 右回転焼の売上げについては、実額を算定することができる。その方法は、一個のあんの量とあんの仕入量(ただし、売残り、あんのみの販売等は除く。)により総売上個数を出し、これに一個の販売価格を乗ずればよく、それはまた可能である。そして、控訴人の回転焼(天輪焼)一個のあんの量は、エルサイズであるから四七・八グラムであり、控訴人の各年分のあんの仕入量から回転焼以外に売却した分五パーセントと、かびや売残り一パーセントの合計六パーセントを除いた分につき、売上個数と売上高を計算すると次のようになる(ただし、その単価は、昭和四六年当時二〇円、同四七年九月一日から二五円に値上げしているから、同四六年分は二〇円、同四七年分は二三円、同四八年分には二五円とするが、昭和四六年当初は、見通しをあやまるなど売残りが多かったものである。)。

〈イ〉 昭和四八年分

29920000(g)×(1-0.06)÷47.8(g)×25(円)=14709623(15,022,594は誤記と認める)(円)

(ただし、あんの仕入量二九九二〇キログラム-乙七号証の一)

〈ロ〉 昭和四七年分

21712517(g)×(1-0.06)÷47.8(g)×23(円)9,820,598(円)

(ただし、あんの仕入総額金三四五万四二六四円を二二キログラム入りの缶を三五〇〇円として仕入総量二一七一二五一七キログラムを算出)

〈ハ〉昭和四六年分

27148787(g)×(1-0.06)÷478(g)×20(円)=10,677,765(円)

(ただし、あんの仕入総額金四三一万九九一二五円を二二キログラム入りの缶を三五〇〇円として仕入総量二七一四八・七八七キログラムを算出)

ロ 被控訴人が推計の根拠としている同業者の一名は、天理駅近くの「御紋焼本舗」こと中川武男であるが、同人は、回転焼のほか、たこ焼、ソフトクリーム、ジュース等を販売しており、その所得を具体的にどのように計算したか明らかでなく、また、被控訴人がいうような青色申告をしている回転焼屋も存在していないから、回転焼だけの推計は事実上不可能である。

2  被控訴人

(一)  本件回転焼の売上金額は、推計によらざるを得ないもので、あんの仕入量から販売個数を算定できないことは、控訴人自身が、原審において、回転焼の売上金額を実額でなく推計によっていたことから明らかである。すなわち、

回転焼による収入金額をあんの仕入数量から算出する場合には、仕入数量等が明らかであり、仕入材料の質量とそれから製品化された商品の質量及び収入金額について各合理的な相関々係のあることが必要とされるが、控訴人のいう昭和四六年、四七年分のあんの仕入量は仕入金額から仕入単価により推認したもので正確性を欠くし、このほか、昭和四八年分の六パーセントの減算の数値も臆測である。このほか、控訴人はあんの使用量を天輪焼によらず、この総重量を一〇〇グラムとしているがいずれも明らかでなく、控訴人のいうような方法であんの使用量を計測することはできない。

(二)  被控訴人が回転焼の収入金算出に適用した天理市の同業者(差益率)についての控訴人の反論は臆測にすぎない。被控訴人が提出した同業者調査表(乙第一六号証の一ないし四)は、大阪国税局長の一般通達に基づいて提出した報告書である。

また、同業者が回転焼を製造していた者であり、「あん巻き」業者でないことは明らかである。

三  証拠関係

1  控訴人

(一)  甲第一号証、同第二号証の一ないし三、同第三号証、同第四号証の一、二、同第五ないし第七号証、同第八号証の一ないし四、同第九号証及び検甲第一ないし第五号証を提出。

(二)  原審証人坂本由朗の証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果を援用

(三)  乙第一ないし第五号証、同第六ないし第八号証の各一、二、同第一三号証の一、二の成立は認め、その余の同号各証の成立は知らない。

2  被控訴人

(一)  乙第一ないし第五号証、同第六ないし第九号証の各一、二、同第一〇及び第一一号証、同第一二及び第一三号証の各一、二、同第一四及び第一五号証、同第一六号証の一ないし四、同第一七及び第一八号証の各一、二、同第一九号証、同第二〇号証の一ないし四、同第二一号証を提出

(二)  原審証人西村敏昭、同横山礼昭、同大亦増夫の各証言を援用

(三)  甲第一号証、同第二号証の三、同第三号証、同第四号証の一、二、同第五及び第七号証、同第八号証の一ないし四の成立は認め、その余の同号各証の成立及び検甲号各証はいずれも知らない。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求をいずれも棄却すべきであると判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決理由説示(原判決一六枚目裏八行目から同二一枚目表二行目まで)のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一六枚目裏八行目「まず原告は」から同末行「供述部分」までを「まず、控訴人は、被控訴人の本件更正処分は控訴人が民主商工会の一員であることに基づき違法目的でなされたから課税権の濫用であり、また、右処分の調査をせず、反面調査をしないとの約束を無視してなされたもので、右処分手続に違法があったと主張するから検討するに、弁論の全趣旨によれば、控訴人に対する課税処分及びその調査は、法律の規定に基づく権限の行使として適法になされたものであって、これを課税権の濫用と断ずる事実資料を欠くのみならず、同調査手続についても、原審証人坂本由朗の証言及び原審(第一回)及び当審における控訴人本人尋問の結果中には、控訴人の主張にそう供述部分」と改める。

2  原判決一七枚目表八行目「そこで」を「請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがないので、以下」と、同一八枚目表八行目「相異」を「相違」と各改める。

3  同一八枚目裏六行目「差益率」を「平均差益率」と改め、同九行目「六六二七円」の次に「(円未満切捨て)」を加え、同末行「第二、三号証の各二」を削除し、同一九枚目表一行目「コーン等」と改め、同裏一行目「乙第九号証の一」の次に「及び弁論の全趣旨」を加える。

4  同二〇枚目表三行目「三八一二円」の次に「(円未満切捨て)」を、同五行目「原価率」の次に、「(2148496円÷4501465円≒0.47)を、同六行目「八七三円」の次に「(円未満切捨て)」を各加え、同七行目から八行目にかけ「三七〇〇円」を「一七九九円」と、同八行目から九行目にかけ「七五一二円」を「五六一一円」と、同末行「七八〇二円」を「五九〇一円」と各改める。

5  同二〇枚目裏六行目「二一二三円」の次に「(円未満切捨て)」を加え、同一〇行目から未行にかけ「原告本人尋問の結果(第一、二回)」を「原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果」と改める。

6  原判決二一枚目表二行目の次に行を改めて次の判断を加える。

「(二) 控訴人は、各年分の回転焼の売上げに関し、推計課税によるのは不当であり実質課税によるべきであるとするところ、確かに課税標準となる所得金額の算定は、収入金額及び必要経費の実額を計算して決定するのが原則であるが、以上において認定の事実に成立に争いのない甲第八号証の二ないし四、乙第七号証の一を総合すれば、控訴人において計算書類が不備で、控訴人の記憶にたよる以外になく、控訴人自身が推計もやむを得ないと考えていたことのほか、控訴人において調査につき必ずしも協力的でなかつたことが認められるから、本件につき回転焼の差益率につき推計による必要性が肯認でき、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。」

二  してみると、控訴人の昭和四六年分ないし同四八年分所得税について、右認定の所得金額の範囲内でなされた被控訴人の本件各更正処分(裁決後のもの)はすべて適法であるから、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がない。よって、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 田坂友男 裁判官 稲垣喬)

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